森本英希フルートの夕べ「21世紀日本の無伴奏フルート作品」

プログラムについて

                                                            

 

関西で私が関わらせて頂いた無伴奏フルート作品を、東京の皆さまにご紹介すること出来ればと考えて企画いたしました。  山路敦司さんの「無伴奏フルートソナタの亜種」は2014年に京都で、金井勇さんの「3つのポートレート」は2013年に滋賀で、木下正道さんの「海の手I」は2017年に和歌山で、それぞれ私が初演いたしました。また、平野一郎さんの「蜃気楼I」は私が2014年に京都で初演いたしました「蜃気楼〇協奏曲」と同じ素材を用いて作曲されている、協奏曲の「源泉」というべき作品です。これらは私にとって、とても大切な作品です。ささやかな試みではありますが、一本の笛に全霊を込めて演奏したいと考えています。

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平野一郎:蜃気楼Ⅰ(2006)

フルート奏者・津上信子氏の委嘱により作曲された作品です。今回のプログラムの中では唯一私が初演したものではありません。私は2015年に、同じ「蜃氣樓」の伝説に触発されて書かれた「蜃氣樓●協奏曲」を初演しました。この作品は、フルート、三群の弦楽器、打楽器による40分を超える大作で、フルート協奏曲として大変に貴重な作品であり、私にとって特別な作品です。今回は、同じ伝説を題材としながらも協奏曲とはまた違った風景がみえるこの作品を演奏できることが非常に楽しみです。

 「史記の天官書にいはく、海旁蜃気は楼台に象ると云々。蜃とは大蛤なり。海上に気をふきて、楼閣城市のかたちをなす。これを蜃気楼と名づく。又海市とも云。(鳥山石燕著『画図百鬼夜行全図』/角川文庫)」

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山路敦司:無伴奏フルートソナタの亜種(2011)

2012年3月に京都で行われた山路さんの個展において初演。山路さんとは京都市立芸術大学の大学院で初めてお会いしました。その頃はちょうど、偶然耳にしたNHK-FMのラジオドラマ『サバイバーズ・ギルト』において大変印象的な音楽を書かれていて、感銘を受けた頃でした。出身が同じ和歌山ということで、たいへん尊敬する先輩でもあります。この作品は3つの音という大変限定された素材で作曲されています。私が聴いたラジオドラマとは全く異世界の作品で、楽譜を頂いた瞬間に鳥肌が立ったのを覚えています。

 ≪初演時の作曲者のノート≫
2曲から成る作品であり、どちらも同じ小節数や構造を持っている。まず、バロック様式のフルートソナタを原型として作曲し、それを複製として2種類の曲を作る。その2曲に、それぞれ異なる音楽的変調や編集を加えていくことで、意図的に劣化した別々の亜種を作り出そうとした。音楽的・音響的に変調させ、歪ませ、圧縮し、ノイズを加える異化作業の結果、例えば演奏者の喘ぐようなブレスの困難さや粗暴でヒステリックな高音といった非音楽的と思われることも、音楽を音楽として持続させる意図的な要素となっている。

※チラシにおいて作曲年代が(2014)になっておりますが、(2011)が正しい年代となります。お詫びして訂正いたします。

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金井勇:3つのポートレート(2013)

 「3つのポートレート」は2013年秋に行った無伴奏の演奏会「息・生き・いき」大津にて初演いたしました。金井さんとは2012年に武生国際音楽祭で初めてお会いしました。アンサンブル「3つの即興」の初演に携わらせていただき、その緊張感のある作風に大変感銘を受けました。その後お話しした際に茶道や雅楽など、伝統的な芸術の鍛錬を積まれていることを伺い、作品の持つ緊張感に、さらに共感することが出来るような気がしたことを覚えています。 

≪初演時の作曲者のメッセージ≫
作品の構想は、「時間」「記憶」をテーマに、フルート→バスフルート→ピッコロと持ち替えて音像が「提示・進展→追想→飛躍」する様相を描き、それによって「現在・過去・未来」のあり方を描くというものです。つまり楽器をめぐっての音像の推移の描写ということで差し支えありません。

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木下正道:海の手Ⅰ(2015)

この曲は大阪で行われた日伊作曲コンクールの際に演奏する予定でしたが、いくつかの理由からその後ずいぶんと時間がたってしまい、2016年和歌山県橋本市のサロン「リュスモーネ」で行われた私の無伴奏のステージでようやく初演いたしました。「石をつむ」や「灰」のシリーズなど、いくつかのテーマで連作を書かれているのが木下さんの特徴だと思います。「海の手」のシリーズは独奏の可能性を追求したものとなっています。

≪初演時の作曲者のコメント≫
タイトルは「海の手 I」です。エドモン・ジャベスという、エジプト生まれでフランス語で書くユダヤ系詩人の言葉です。「やがて神がその腕を引込める海の底には、揺れ動き、求め合い、互いに挑み合う手がある。手の中の手、油の海原。」という感じです。

海の手は独奏曲のシリーズです。あまりコンセプトには捕われず、自然な音楽の息吹を大事にした、演奏家の身体性や音楽性に優しい音楽を目指しています。フルートの低い音から高い音まで、強い音から最弱音まで使い、密やかかつ凛とした音楽を書いたつもりです。

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チケットぴあ 販売ページ
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